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弁護士が知っておくべきサイバーセキュリティ保険:リーガルテック導入で高まるリスクへの備え

Tags: リーガルテック, サイバーセキュリティ, 保険, リスク管理, 法律事務所

弁護士が知っておくべきサイバーセキュリティ保険:リーガルテック導入で高まるリスクへの備え

近年、弁護士業務においても、契約書レビューAI、クラウド型文書管理システム、オンライン会議ツールなど、様々なリーガルテックの導入が進んでいます。これらの技術は、日々の業務効率化や生産性向上に大きく貢献する一方で、新たなリスク、特にサイバーリスクの可能性も高めています。

法律事務所は、依頼者の機密情報や事件記録、財務情報など、極めて秘匿性の高い情報を扱っています。これらの情報がサイバー攻撃によって漏洩したり、システムが停止したりした場合、業務の中断だけでなく、重大な信用の失墜、損害賠償責任の発生といった深刻な事態を招く可能性があります。

本稿では、リーガルテックの活用が進む中で、弁護士業務においてどのようなサイバーリスクが想定されるのか、そしてそのリスクへの備えとして「サイバーセキュリティ保険」がどのような役割を果たすのか、検討すべきポイントと併せて解説いたします。

弁護士業務におけるサイバーリスクの具体例

リーガルテックの導入は、インターネットを介した情報のやり取りや、外部サービス(クラウド)への依存度を高めます。これにより、以下のようなサイバーリスクに晒される可能性が増加します。

これらのサイバー攻撃が発生した場合、システムの復旧費用、情報漏洩時の対応費用(調査、謝罪、賠償)、業務停止による損害、そして何よりも法律事務所としての信頼の失墜といった、多岐にわたる損害が発生し得ます。

サイバーセキュリティ保険とは何か

サイバーセキュリティ保険は、企業や組織がサイバー攻撃を受けたことによって発生する様々な損害を補償する保険商品です。従来の賠償責任保険などが物理的な損害や過失による第三者への損害賠償を主な対象としているのに対し、サイバー攻撃に起因するリスクに特化しています。

主な補償内容としては、以下のようなものが挙げられます。

これらの補償内容は保険会社や商品によって異なりますが、サイバー攻撃による直接的な被害だけでなく、その後の復旧や第三者への対応、事業継続に関わる費用まで広くカバーできる点が特徴です。

サイバーセキュリティ保険の役割と必要性

法律事務所において、リーガルテックの導入と並行してサイバーセキュリティ保険の検討が必要とされる背景には、以下の理由があります。

  1. 高まるリスクへの対抗: クラウドサービスの利用やリモートワークの普及など、リーガルテックの活用は業務の利便性を向上させますが、同時に攻撃対象となり得るポイントを増やします。高度化するサイバー攻撃に対し、最新のセキュリティ対策を講じてもリスクをゼロにすることは困難です。
  2. 被害発生時の経済的負担: サイバー攻撃による被害発生時には、システムの復旧だけでなく、漏洩調査、関係者への通知、法的対応、信用回復のための広報活動など、多額の費用が発生する可能性があります。また、業務停止による経済的損失も無視できません。これらの費用は、小規模な事務所にとって経営を揺るがすほどの負担となる可能性があります。
  3. 賠償責任リスク: 依頼者からの重要情報漏洩は、法律事務所としての善管注意義務違反を問われ、損害賠償請求に発展するリスクを伴います。サイバーセキュリティ保険は、このような第三者への賠償責任も補償の対象とすることができます。

サイバーセキュリティ保険は、サイバー攻撃そのものを防ぐものではありません。しかし、万が一被害に遭ってしまった場合に、発生する経済的損失を補填し、事業の継続や迅速な復旧を支援するためのリスクヘッジとして重要な役割を果たします。特に、比較的小規模な事務所や、多額の費用を投じたセキュリティ対策が難しい場合において、保険は有効なセーフティネットとなり得ます。

サイバーセキュリティ保険検討のポイント

サイバーセキュリティ保険の導入を検討するにあたっては、以下の点を考慮することが重要です。

まとめ

リーガルテックは、弁護士業務の生産性を向上させ、働き方改革を推進する強力なツールです。しかし、その利便性の裏側には、回避しきれないサイバーリスクが存在します。情報漏洩やシステム停止といった事態は、経済的な損害だけでなく、法律事務所としての信頼を根幹から揺るがしかねません。

サイバーセキュリティ保険は、これらのリスクに対する経済的な備えとして有効な選択肢の一つです。自事務所が直面しうるサイバーリスクを評価し、保険の補償内容や費用対効果を慎重に検討することで、リーガルテックをより安心して活用できる環境整備につながります。

技術導入による効率化と同時に、それに伴うリスク管理にも目を向け、適切な対策を講じることが、現代の弁護士業務においては不可欠と言えるでしょう。